TOAST



カランッ

小さな街にたった一軒しかない宿屋の一階、深夜で申し訳程度に明かりの灯った食堂で一組の男女が無言でグラスを傾けていた。

琥珀色の酒の入ったグラスをゆっくり回している男はよく見れば奇異な姿をしている。

薄青い肌は固そうで、銀の髪はたとえではなく銀そのもの。

しかし彼の向かいに座っている女はその容姿に畏れることも異端視する視線も彼に向けてはいない。

ただ柔らかそうな茶色の髪を掻き上げ童顔な顔つきに似合わない勢いでグラスを煽っていく。

第三者が見ればかなり奇妙な光景。

だが本人達にそんな自覚はない。

・・・それもそのはず。

男 ―― 合成獣であるゼルガディスと女 ―― 天才魔導士の名に恥じることのない才能をもつリナ=インバースは共に旅をしている仲間なのだから。






「・・・ペースが早いな。」

独り言のようなゼルガディスの言葉にリナはちらっと彼を見る。

「別にいつもの通りだけど。」

何事もないようにリナは答えるがゼルガディスにはそれが嘘であることがわかってしまう。

一緒に旅をするようになってリナはよくこんな風にゼルガディスを付き合わせて酒を呑んでいた。

だからゼルガディスには彼女の『いつも』がわかっているのだ。

・・・もっともただ何度も一緒に呑んでいるからという理由だけではないのだが。

無言で語りかけてくるようなゼルガディスの視線にリナは軽く肩をすくめる。

「・・・そうね。」

ぽつりと答えてまた無言の空間が戻る。







「・・・ゼルは・・・」

「ん?」

ぽつっと呟かれた自分の名にゼルガディスはいつの間にか目がいっていたリナの指先から彼女の顔へ視線を移した。

見れば彼女にしては珍しくあさっての方向を見たまま声をかけてきたらしい。

淡い明かりに縁取られたリナの横顔をゼルガディスはなにも言わずに見つめる。

「ゼルは・・・これからどうするの?」

こちらを見ることもなく言われた言葉にゼルガディスは心の中で溜め息をついた。

―― いつ聞かれるかと思っていたのだ。

彼らのパーティーはつい最近死線をくぐり抜けるようなやっかい事を解決させた。

その直後は自分たちの怪我をなおし、生きている事を実感している事だけで精一杯だったがそろそろ全員が通常通りに戻り始めている。

・・・そういう時はえてして別れがやってくるものだ。

やっかい事に巻き込まれている最中に持っていた共通の目的を失うから。

実際セイルーンの王女であるアメリアは国へ帰ることを決めている。

保護者という肩書きを自称するガウリイと違い成り行き上一緒にパーティーを組む事になっているゼルガディスがこれからどうするのか、誰も聞いてはこなかったのは順当にいけばゼルガディスは一人旅に戻ると思っていたのかもしれない。

しかし・・・

ゼルガディスはグラスを軽く煽って言った。

「・・・お前さんはどうするんだ?」

聞くまでもなく答えはわかっている。

自称保護者のガウリイと共に旅を続けていくのだろう。

出逢った時にはすでにコンビだった2人がこの先も一緒にいるのは暗黙の了解の元にわかっている・・・つもりだ。

キリッとリナと出逢うまで忘れていた感情が心のどこかで悲鳴を上げても。






しかしリナの答えはゼルガディスの思っていたものとは違った。

「さあ。どうしようかしらね。」

「どうしよう・・・?」

ガウリイの旦那と一緒に行くんじゃないのか?

ゼルガディスの疑問を読みとったかのようにリナは口元で笑った。

「保護者と非保護者は別れちゃいけないわけ?」

『別れる』という意外な言葉にゼルガディスは眉を寄せた。

その反応にリナは面白そうにグラスを傾ける。

「それで?さっきの質問に答えてないわよ?」

ゼルガディスはその言葉に戸惑った。

何を答えろというのだろう?

彼女は彼女の自称保護者と共に行くと思っていたから、アメリアがいなくなれば自然と一人と二人に別れていくと・・・諦めていた自分に。

リナは舐めるようにグラスの酒を呑みながら、急かすこともなくゼルガディスの答えを待っている。

そのアーモンド色の瞳でゼルガディスを見ながら。

「俺は・・・」

カランッ

グラスの氷が澄んだ音をたてる。

「俺は・・・」

紡ごうとした言葉が空間に飲まれた。

どんな言葉も自分の気持ちを・・・リナと自分の関係を言い表すのに相応しくない気がしたせいだ。

保護者とか友人とかいう言葉では表せない不思議な関係。

壊したくて・・・壊したくない関係。

ゼルガディスは溜め息をついて目の前で楽しげに自分を見つめる天才魔導士を見た。

・・・結局、ゼルガディスが言えたのは一言。

「・・・こんな風に呑めなくなるのはごめんだな。」

リナはくっと笑った。

そして満足そうに持っていたグラスを目線まであげて言った。

「それは同感ね。・・・よろしく。」

その言葉に少し目を見開いて・・・すぐにゼルガディスは目を細めて口元を緩ませた。

「ああ。よろしく。」

カチンッ・・・

グラスのぶつかる澄んだ音が、新たなパートナーを見つけた二人を祝福した・・・・










                                   〜 END 〜






- コメント -
こんな感じが私のゼルリナのイメージです。言葉にしない関係っていうのかな。
原作でもふとゼルが匂わすリナへの気持ちとか、リナとゼルの言葉に裏のあるやりとりとかが好きでしたv
それならゼロリナでもいいんじゃあ?という考えもあるけど、やっぱり私はゼルリナが好きなんです〜vv
甘い言葉がなくても『お前が必要だ』っていう感情をお互い持ってるって出したかったんですよ。
もっと露骨に書いてみたかったんだけど、最近原作読んでないからあんまり原作のゼルから外れた行動をさせると誰だかわかんなくなって後でのたうち回る事になるのは嫌なので(^^;)
それにしてもゼルリナ〜〜〜v
みんなこのマイナー街道まっしぐらカップリングにはまってほしい〜〜〜〜(笑)
ちなみにタイトルの『TOAST』はうちの和英辞典が血迷っていない限り、『乾杯』という意味です。